我が心の音友よ、「無欲のつもりで」はいかがでしたか?
配信開始と共に楽曲解説を書いている昨今、今回もお届けしますね。
「無欲のつもりで」が世に出たのは1993年。サウンド&レコーディングマガジンでデモテープCDを出す企画「S&RコンピレーションVol.1」に、どなたかの手に渡っていた私の音源が使われることになったのです。
その後2007年のベストアルバム「隷属快美の娘達~BEST SONGS II~」に、小池雅也さんの編曲で再録しました。
楽曲解説の公開が遅くなったのは、私がこの辺の経緯を何も憶えていなくて、作曲時のことも思い出せないのはどうしたものかと考え込んでしまったからです。履歴を見たら2ヶ月近く書きかけのままでした。31年前と17年前のこと、ただでさえ記憶に自信がない私だから、もう思い出せなくても仕方ない…という訳で、当時を振り返るのはあきらめ、今回のことを書いてみます。
元々はシンプルなピアノ中心のアレンジ…編曲とまではいかないくらいの構成でまさにデモ段階、その時はコードもシンプル。ただ、私の中ではジャズ的なコード感を出したいけれど自分ではそれが表現できないという悩みがあった筈(憶測ばかりですが)。その後小池兄貴に編曲をお願いした時には、小池兄貴のカラーでギター中心に仕上げてもらおうという気持ちだった筈。今回再録しようと思い立った時、31年前に表現できなかったことが今なら可能だと考えました。
編曲の西岡正通さんとのこれまでのやりとりで、私達はジャズっぽい歌物を作るのが好きだという発見(ジャズ小唄シリーズと呼んでる)があったからです。
「未完の狂気」、「窓辺の真珠」、「バイバイ、永遠に。」、「進退維谷まる」、ジャズ風味ではあるけれどそこを強調するつもりもない独自路線、という共通点がある曲達。これがジャズ小唄シリーズです。
「無欲のつもりで」も、きっとジャズ小唄シリーズに連なる曲。そう決めるとあとは歌い方です。31年前はまだ自分の声の扱いに迷いがあり、17年前はウィスパー癖強(くせつよ)追求期。現在はなるべく癖強を出さない歌い方に凝っているので、その方向で行こうかと。
コーラスをメインに重ねてたくさん入れたい。そして「進退維谷まる Monologue ver.」の間奏のように、ギターソロに絡みたい。というお願いを西岡君に伝えました。
自分からは出てこないコーラスのライン、譜面を読んで歌ってはいるものの自信がなく、歌いながら何度も「合ってる?合ってる??」と訊いてしまいました。
曲の構成は
Intro-1A-1A’-1B-1A”-Interlude-2B-2A
作曲した当時は、まだ感性の赴くままに作っていた時期。このコード進行とメロディーの組み合わせ気持ち良い!という単純な気持ちだったと思います。
転調を繰り返しだんだん下がるコード、1B、2Bの後半が実質のサビとなり、2Aはいきなり終わるという構成。作った経緯はわからないものの実に自分らしい、良い意味だと思いたい頓狂さを感じます。頓狂から素敵に変えてくれたのが西岡君の編曲の力、特にギターソロとコーラスの間奏です。
間奏のコーラスは、レコーディングが終わったあとも入浴中などによく歌ってしまうくらい染みこみました。音の多さや大きさではない、心地良い圧を感じるコーラスアレンジだと思います。理解度が深くて毎回感動がある編曲、本当にありがたいことです。
自分については、当時の気持ちがわからないので、他人事のように「こんなに私好みの曲を作ってくれてありがとう」という想いでもあるのです。Aの後半、2拍ごとの転調などは情緒大丈夫?とも。一体自分がこの先どういう音楽人生を送るのか全く見えてない時期の作風が懐かしい。
この素敵サウンドに合う映像をと考えた時、言葉を前面に出したリリックビデオにしたい、楽曲が持つ切なさを具体的に表現したいなと。昼間は活動できないコウモリ、夜は活動しないし飛べないヤンバルクイナ、分かり合えないけど繋がりたい想い純愛ストーリーを作ってみました。
デザイナー水口智彦さんの描くコウモリさん、ヤンバルクイナくんが星座になったり人間になったり、私の浪漫脳爆発な物語は恥ずかしい。でも映像の中に歌詞を印象深く大野瑞稀さんが盛り込んでくれたので、ぜひ曲と共に楽しんで頂きたい!
今だったら、きっとこの曲も何回か練り直したでしょう。たぶん2Bは1Bと同じではなく、微妙に違っているメロディーにして、長さも倍くらいにするかもしれません。人は変わります、細胞も入れ替わります。50代の自分と20代の自分は別人と言っていいほどの変化。魂の色は同じでも、考え方は全く違うのです。私は常に今の自分で音楽と向かい合っていきたいと思っているし、今の自分の方が(馬鹿は馬鹿のままだけどちょっとは進化してると思うので)好きです。
我が心の音友よ、レコーディングの写真と共にお届けした楽曲解説はこれで終わりです。
もう次作「The Last Day」が配信開始となりました。こちらの楽曲解説も近いうちに書きますね。
では、また!