我が心の音友よ、アルバム「Another mysterious ticket」、そして前回の「眠りの大使 (AYAKASHI ver.)」楽曲解説はいかがでしたか?
楽曲解説で自分の曲への想いの輪郭がはっきりしてきました。この勢いで、かなり思い入れが強い曲「砂海パラソル」についても語ってみようと思います。
“SAKAI parasol (Wandering ver.)” music commentary
7曲目の「砂海パラソル (Wandering ver.)」は、2021年発売デジタルシングル「蜿蜒 on and on and」のカップリング曲「砂海パラソル」の別バージョン。「砂海パラソル」は映像も作ったほど大好きな曲です。
その一部を切り取って、オケをシンプルにして聴く「Wandering ver.」、元曲との大きな違いはベースを抜いたことです。「砂海パラソル」で特徴的なのは、心をかき乱すような或いは撫でるようなベースライン。フレットレスベース(文字通りフレットが無い特殊なベース)で奏でるその音がイントロ、間奏はもちろん歌の中でも大きな役割を果たしています。そのベースを敢えて抜くことによって、そこにいた筈のベースラインに想いを馳せてしまう。想いを馳せた後、ベースラインが入った元曲を聴くと、押し寄せてくる安心感。
そう、音が合わさる必然性を感じるための仕掛けでもあるのです。以上を踏まえて間奏のベースソロ(2:46〜3:15)を聴くと、セキタヒロシさんのベースラインの解釈がさらに胸に刺さってきます。ありあまるテクニックをひけらかす訳でもなく、楽曲の渾沌に寄り添いながら盛り上げる演奏、素晴らしい。
「砂海パラソル」は、あらためて西岡正通さんの編曲の魅力を感じた曲であることも、思い入れが強い理由だと思います。
「砂海パラソル」までのお付き合いを振り返ってみると、西岡君とはアルバム「永遠無惨」の時にサウンドエンジニアとして出会い、
編曲をお願いしたのは、2013年の「こわれものリボン(小)」、「KISS BEAT!!」、「瞳にパノラマブルー」。
その後2019年にラジオテーマソングのカップリング曲「極楽だよ?浄土だよ?」、
そして懐古庭園シリーズの「BAD END DAYS」からは、シリーズ全曲の編曲をお願いするようになり、
「離岸流に乗って」、「未完の狂気」、「幻を読む種族」、「千の水車」、
「水中飛行」、「窓辺の真珠」、「こまったおさかな」、「日々に疎し」、
「千の水車 (Long melancholy ver.)」、
「雨月物語」、「Chocolate Revolution (PAPAYA ver.)」、 「恋すれど」、「誰よりも何よりも」、
「鏡の名前」、「ブラウン通りで待ってます」、「眠りの大使」、「眠りの大使 (AYAKASHI ver.)」…ここまで制作を重ねてきて辿り着いた20曲目の「砂海パラソル」で、私達の楽曲制作の何かが変わった印象があります。
解釈の自由度が一段高まったような、もっと一緒に挑戦できそうと感じたような。西岡君がもし大きなタンスだとしたらここにもあったのかと意外な場所に引き出しを見つけたというか、そしてその引き出しに入っていた絵の具を使った絵を描きたくなったというか。自分でもこの絵の具を持っていることに気づいていなかったけど、確かに持っていることを自覚した西岡君に出会い直した気がしたのです。
ここで、「砂海パラソル」元曲の構成について触れてみます。
Intro1-0C-Intro2-1A-1B-1C-1C’-Interlude1-2A-Interlude2-2B-2C-2C’-Interlude3-3C-3C’-Outro
この曲は、主題であるC部分の展開が独特だと思います。サビの途中(1C、2C、3Cの終わり)でコードを解決させるのに、サビの最後のコード展開(0C、1C’、2C’、3C’の部分ですね)ではとにかく解決させないのです。コードの解決とは、大雑把に言うと聴いて落ち着きが良い和音へ繋げるということ、私は意図的に解決させていません(画像の転=転調)。
コードを解決させない効果がわかりやすいのは歌詞が対になっている1A’と2Aです。メロディーは同じで1A’はコードが解決、2Aはフリーな展開で解決させていません。2Aの後のInterlude2で、思いっきり渾沌とした雰囲気を出したかったので、1A’を敢えて単純なコード進行で解決して安心感を出してから2Aとの対比を作り、Interlude2のリズムも和声も不規則な動き、コーラスがリズムを刻むという構成へ誘導です。
進行については、以前「弱り目に祟られろ!レディオ 或いは感情言語化研究所 19祟目」、作曲家の田代智一さんゲスト回にて彼の指摘に応えて、歌詞に連動させた解決させない訳を語り合っています(上の動画で該当の場所から聴けます)。作曲家同士だとその辺は気になる箇所でもあり、曲のテーマを表現するために使う技術にはそれぞれの個性が出て興味深いところです。
個性を咀嚼した上でどう編曲するかというところで、「砂海パラソル」において私と西岡君の特性が融合したのではという想いが生まれました。
つまりもっと一緒にできることがあるはず、というこの想いがアルバム「Hello SEKAI」の、60秒の中で全てを表現する挑戦へと繋がっていったのだと思います。
かなり長くなってしまったけど、私が考える編曲の大切さと面白さ、曲への思い入れが少しでも伝わったら嬉しいです。
余談ですが、この写真は2021年「砂海パラソル」録音時なので、西岡君の髪型がドレッドじゃないのが新鮮!
我が心の音友よ、レコーディングの写真と共にお届けした楽曲解説、少し前の引用楽曲が多くて懐かしい気持ちになりました。次は8曲目で最後の曲「Another mysterious ticket」 について書きますね。
では、また!