我が心の音友よ、アルバム「Another mysterious ticket」、そして前回の「砂海パラソル (Wandering ver.) 」楽曲解説はいかがでしたか?
前回かなりの熱い長文となってしまって、恥ずかしさと申し訳なさが込みあげました。今回はさっぱり簡潔に書けるでしょうか?
“Another mysterious ticket” music commentary”
このアルバムのタイトルでもある、8曲目の「Another mysterious ticket」は、「Hello SEKAI」で挑戦した60秒の中に全てを込めて完成させるという手法の延長線上にありながら、2023年の自分が表現したかったことを代表する曲だと思います。その曲に歌詞がないというのは、作詞家として多くの仕事をしている身では不思議な気持ちです。
いつも自分が歌う曲を作る時、詞と曲は同時進行なのですが、この曲に関しては言葉が出ないまま最後まで作りました。歌詞を考えることが蛇足というか野暮という気持ちになってしまったのです。
なぜそう思ったのかを、フレーズを追いながら解説してみます。構成、音、和音をそれぞれアルファベットで表記するので、少し読みにくいかもしれませんがご容赦をば。またコード(和音)のテンション(コード構成音以外の音)は、ほぼ省略して説明しています。
この曲の構成は、Intro-A-B-C-D-E。繰り返しはない一方通行です。解説用にメロディー、コーラス、シンセサイザーのフレーズ、ベースのみ譜面にしてみました。
(注:表記のコードは私が作曲した時に進行がわかりやすいよう考えたものなので、正確に言うと自分の感覚とも少し違う部分があったり、西岡君の編曲では解釈が異なる部分があるかも)
まずイントロのシンセサイザー、8分音符の音階が続くフレーズを先に作りました。これは曲の脈拍、淡々とずっと鳴り続けるという位置付けです。構成Cに行くまでは始まりの音を全部D音(レの音)にして、変わらないという安心感を出します。構成Cで初めて音が移動して、その後は鳴り止む。Another mysterious ticket を持って旅立つ扉を見つけた、違う入り口を見つけた、新しい世界への乗り物が現れて息を呑んだ様子をフレーズが止まることによって表現しています。
このD音から始まるフレーズを受け継いで、メロディーもD音から始まり、構成Bで盛り上げた後、構成CでまたD音へ戻ります。この曲はコードD(和音レファ♯ラ)で始まる設定、つまり日常をD音として解釈、構成Dの最後のD音、構成EのD音からA音(ラの音)に飛ぶことで、日常から離れる意味を持たせながら、メロディーをA音へ飛ばすことで、解決させない…旅は続くという暗示で終わらせています(ちなみに最後はコードGで終わらせて、G音(ソの音)で終われば解決した雰囲気になります)。
次にベース音。IntroはコードDのルート音(一番低いコードを支える音 レの音)を外してA音から始まります。構成Aで一音下のG音へ。構成BでF音E音D音C音(ファミレド)、最後のC音でやっとコードCのルート音が出てきます。こういった音が一音、または半音ずつ下がっていく進行(もしくは上がる)、私の曲では多用。つまり大好き。少しずつ軸がずれていくような不安感、感情の推移を現しているような雰囲気が好きなのです。全体でベースがルート音を弾いている割合は僅か、つまり安住を拒む感覚です。
そしてコーラスは2声。便宜上コーラスとしていますが、メロディーを含め対等な3声という意識で作って、1本ずつ聴いても Another mysterious ticket を感じる、3本合わせると完成形として感じるようになっています。
本来なら歌詞を載せて完璧な Another mysterious ticket へ、と思う筈なのにもう充分表現できていると、私の気持ちはここで完結してしまいました。歌詞はないけど、インストルメンタルではないという想いがあり「Ticket」という一言を入れましたが。さらにこの後、西岡正通さんへ編曲を頼み、彼の解釈でさらに別世界への誘い度は高まりました。
「謎のチケットで何処かへ旅立つような雰囲気。広がりがあり、ときめきがあり、でもどこか少し悲しげな…イメージは流れ星を横目で見ながら天の川を駆けて宇宙へ飛び出す!という感じです。複数のアルペジオが遠くで重なりあったり、スペイシーな効果音があったりすると楽しそうです」と、編曲をお願いしたのです。
イントロのシンセサイザーが脈拍であるとは西岡君に言わなかったけれど、心音っぽいバスドラムを入れてくれたので、何かしら伝わっている気がしました。
編曲を堪能するために、ぜひヘッドフォンでも聴いてみてください。効果音のような音から透明感のあるアルペジオまで、曲の浮遊感を高めるギターのフレーズに囲まれた声が深いリバーブとディレイで広がって行く、まさに「Another mysterious ticket」というテーマを表現したた編曲です。
声のエフェクトに関しては、サウンドエンジニアの担当ですが、西岡君は編曲だけではなく収録、編曲、Mix(音のまとめ)、マスタリング(音の最終調整)全てを担当しているので、曲の最終形まで共に駆け抜けられるのが、とてもありがたいと思います。
「Another mysterious ticket」、曲順的には最後ですが、1曲目の「湖底」に繋がるように作っています。アルバム全体のイントロでありアウトロである楽曲。アルバムジャケット撮影時、大野瑞稀さんが撮影してくれた映像でショート動画を作ったので、良かったらみてくださいね。Instagramでも見られます。
我が心の音友よ、レコーディングの写真や譜面と共にお届けした楽曲解説はこれで終わりです。拙い文章ですが「Another mysterious ticket」と合わせて楽しんで頂けたら嬉しいです。
では、次作「迷える恋羊 – 懐古庭園 Vol.09 -」もお楽しみに!